日本ASEAN関係基本資料データベース
東京大学総合文化研究科国際社会科学専攻 山影進研究室
東南アジア非核兵器地帯条約(仮訳)
東南アジア非核兵器地帯条約
本条約締約国(以下「締約国」という)は、
国連憲章の目的と原則の実現に貢献することを希望し、
普遍的かつ完全な核兵器の軍備縮小に向けた進展、及び国際社会の平和と安全保障の促進に貢献する具体的手段をとることを決意し、
様々なコミュニケ、宣言及び他の法的文書で表明されているような、平和共存並びに相互理解及び協力の精神に則り、地域の平和と安定を維持するという東南アジア諸国の希望を再確認し、
1971年11月27日にクアラルンプールにおいて署名された「平和、自由、中立地帯(ZOPFAN)」宣言及び1993年7月にシンガポールにおける第26回ASEAN外相会議において採択されたZOPFAN行動計画を想起し、
「平和、自由、中立地帯の不可欠な構成要素として東南アジア非核兵器地帯の設立が、地域の諸国の安全保障及び国際社会全体の平和と安全保障の強化に貢献することを確信し、
核兵器の拡散防止及び国際社会の平和と安全保障に貢献するという観点から、核兵器不拡散条約の重要性を再確認し、
国家群がその領域内において核兵器が全く存在しないことを確保するために地域的な条約を締結するという権利を認めた核拡散防止条約第7条を想起し
非核兵器地帯の確立を慫慂する国連総会第10回特別会合での最終文書を想起し、
1995年のNPT締約国再検討・延長会議において採択された、全ての核保有国の協力と彼らの関連議定書に対する尊重と支持が当該非核兵器地帯条約及び関連議定書を最大限に効力的なものとするために重要である旨述べている「核兵器の不拡散及び軍縮のための原則及び目的を想起し、
放射性廃棄物及び他の放射性物質により生じる環境汚染と危険からこの地帯を保護することを決意し、
以下のとおり合意した。
第1条 用語の使用
1.本条約及び議定書のために
(a)「東南アジア非核兵器地帯」(以下、「地帯」という)とは、全ての東南アジア諸国、即ち、ブルネイダルサラーム、カンボディア、インドネシア、ラオス、マレイシア、ミヤンマー、フィリピン、タイ、シンガポール及びヴィエトナムの領域、及びそれぞれの大陸棚及び排他的経済水域(EEZ)をいう。
(b)「領域」とは、陸地、内水、領海、群島水域、その海底及びその地下並びにその上空をいう。
(c)「核兵器」とは、核エネルギーを制御できない方法で(in a uncontrolled manner)放射することができる、あらゆる爆発装置をいうが、その装置が分割可能又は不可分の部分でない場合には、輸送又は運搬の手段は含まれない。
(d)「配置」とは、配備(deploy)、備え付け(emplant)、取り付け(install)、貯蔵(stockpile)、保管(store)をいう。
(e)「放射性物質」とは、国際原子力機関(IAEA)によって推奨された余裕または許容限度を超える放射性核線量(radionuclides)を含有している又は汚染されている原料をいう。
(f)「放射性廃棄物」とは、濃縮状態もしくは現状でIAEAにより推奨された余裕限度を越える放射性核線量を含有し又は放射性核線量に汚染され、他の用途が予見されない物質をいう。
(g)「投棄」とは、(i)船舶、航空機、プラットフォーム、又はその他人工海洋構築物からの放射性廃棄物又はその他の物質のその海底及びその地下への埋め込み処分も含む故意の海洋処分、及び(ii)放射性物質を含有する船舶、航空機、プラットフォーム又はその他の人工海洋構築物のその海底及びその地下への埋め込み処分も含む故意の海洋処分をいう。しかしながら、ここでは船舶、航空機、プラットフォーム、又はその他人工海洋構築物及びその装備の通常運用に付随する、もしくはそれから導かれる廃棄物又はその他の物質の処分は含まない。なお、それらは、廃棄物又はその他の物質の処分の目的をもった船舶、航空機、プラットフォーム又はその他の人工海洋構築物によって運搬される、もしくは持ち込まれる廃棄物又はその他の物質、又は、右船舶、航空機、プラットフォーム又はその他の人工海洋構築物における右廃棄物又はその他の物質の取り扱いに伴い生じる右物質とは異なるものである。
第2条 条約の適用
1.本条約及び議定書は、本条約が効力を有する地帯における締約国の領域、大陸棚及びEEZにおいて適用される。
2.本条約のいかなる規定も、1982年の海洋における国際連合条約の規定に従い、また、国連憲章と一致した、船舶及び航空機の公海の自由、無害通航権、群島航路帯通航又は通過通航に関し、国際法に基づく全ての国の権利を害するものではない。
第3条 基本的義務
1.締約国は、この地帯の内部又は外部において、以下を履行してはならない。
(a)核兵器の開発、製造、又はその他の手段による取得、保有もしくは管理
(b)あらゆる手段による核兵器の配置または運搬
(c)核兵器の実験若しくは使用
2.締約国は、この領域内において、他の国家に対して、以下を履行させてはならない。
(a)核兵器の開発、製造、又はその他の手段による取得、保有もしくは管理
(b)核兵器の配置
(c)核兵器の実験若しくは使用
3.締約国は、また以下を履行してはならない。
(a)放射性物質または放射性廃棄物の海洋への投棄、地帯内のあらゆる場所における放射性物質または放射性廃棄物の大気中への排出
(b)第4条2.(e)に規定された場合を除き他の締約国の領域内の地上もしくはその管轄下の領域への右物質の処分
(c)領域内における、他の国家による右物質の海洋への投棄、地帯内のあらゆる場所における放射性物質または放射性廃棄物の大気中への排出
4.締約国は、以下を履行してはならない。
(a)本条1、2または3の規定に反するあらゆる行為の実施に対する、あらゆる援助の要請、または受領
(b)本条1、2または3の規定に反するあらゆる行為の実施の支援、または慫慂するあらゆる行為
第4条 核エネルギーの平和目的の利用
1.本条約の諸規定は、特に締約国の経済発展及び社会発展のため、締約国が核エネルギーを平和目的で利用する権利を害するものではない。
2.よって各締約国は以下を履行すること。
(a)各締約国の領域及びその管轄及び統制下にある地域にある核物質及び設備を、平和目的のためのみ使用すること。
(b)締約国は平和的核エネルギー計画を実行に移す前に、IAEA規則3.6に従って健康の保護及び生命、財産への危険を最小に留めるため、その計画をIAEAの推奨する指針及び基準に適合する厳格な核安全評価(nuclear safety assessment)に従わせること。
(c)要求により、締約国は「評価」を他の締約国も利用できるようにする。但し、個人データに関する情報、及び情報所有権、工業・商業上機密、IAEA規則3.6に定められた所有権によって保護された情報を除く。
(d)NPT及びlAEA保障措置制度に基づく国際不拡散制度の継続的な有効性を支持すること。
(e)放射性廃棄物及びその他の放射性物質を、IAEAの基準及び手順に従い、その領域内またはその処分に同意した他の国の領域内の地上において、処分すること。
3.締約国は、更に、平和目的のため、原料または特別な核分裂性物質、並びにその加工、使用又は製造のために特別に設計され又は準備された装置または物質を次の国に対し供給しない。
(a)NPT条約第3条1により要求されている保証措置に従った条件下にある場合を除き全ての非核兵器国。
(b)IAEAとの適切な保障措置協定に従った条件の下にある場合を除き全ての核兵器保有国。
第5条 IAEA保証措置
平和的核活動に対するフル・スコープ保証措置の適用を受けるためのIAEAとの協定を締結していない締約国は、本条約の効力を発生後18カ月以内にIAEAとの協定を締結する。
第6条 核事故の早期通報
締約国は、核事故の早期通報協定に加入していない場合、右協定への加入に努める。
第7条 外国の船舶及び航空機
締約国は、あらかじめ通知がなされた場合、無害通航権、群島航路帯の通航権又は通過通航権によらない、外国の船舶及び航空機による自国の港及び飛行場への寄港、外国航空機による領空通過、外国船舶による領海または群島航路帯の通航、並びに外国航空機によるそれら水域の上空の通過について独自に決定する。
第8条 東南アジア非核兵器地帯委員会の設置
1.本条約の規定に従い機能するものとして、ここに東南アジア非核兵器地帯委員会を設置する。(以下、「委員会」という。)
2.全ての締約国は、自動的に委員会のメンバーとなる。代表は外務大臣若しくは代理もしくはアドバイザーを伴うその代行者。
3.委員会の機能は、条約履行を監視し、条項の遵守を保障することである。
4.委員会は、いかなる締約国からの要請に基づく場合も含め、本条約の規定に従い、必要に応じ開催される。可能な限り、委員会はASEAN大臣会議と同時期に開かれる。
5.各会合の冒頭、委員会はその議長及び他の必要な職員を選出する。彼らは、次回会合において新たな議長及び他の職員が選出されるまで職務に就く。
6.本条約において特に規定されない限り、定足数を満たすには少なくとも総会のメンバーの三分の二の出席を要する。
7.委員会のメンバーはそれぞれ一票を有する。
8.本条約において規定がある場合を除き、委員会の決定は、全会一致、又は、右ができない場合には、出席し投票を行ったものの三分の二の多数決による。
9.委員会は、全会一致により、財政及び補助機関を統制する会計規則ばかりでなく手続き規則に合意し、受け入れる。
第9条 執行委員会
1.ここに委員会の補助機関として執行委員会を設置する。
2.執行委員会は本条約の全ての締約国によって構成される。各締約国は高級事務レベル1名によって代表され、代行者及びアドバイザーを同行させることができる。
3.執行委員会は以下の機能を有する。
(a)第10条に規定されている管理制度の規定に従った検証措置の適切な運用を確保すること。
(b)説明及び事実調査団の要請に関して検討を行い、決定すること。
(c)付属書類に従って事実調査団を設立する。
(d)事実調査団の調査結果、及び委員会への報告を検討し決定すること。
(e)必要に応じ委員会に会合の開催を要請すること。
(f)委員会によって正当に授権を受けた後、執行委員会として、IAEA又は他の国際機関との間で、第17条に述べられた協定を締結すること。
(g)委員会に示された他の任務を遂行する。
4.執行委員会はその機能の効果的執行のために必要に応じ開催される。可能な限り、執行委員会はASEAN高級事務会合と同時期に開かれる。
5.執行委員会の議長は委員会議長の代理となる。締約国による執行委員会議長へのあらゆる依頼及び連絡は、執行委員会の他のメンバーヘも伝えられる。
6.定足数は執行委員会のメンバーの三分の二とする。
7.執行委員会のメンバーはそれぞれ一票を有する。
8.執行委員会の決定は、全会一致、又は、右ができない場合には、出席し投票を行ったものの三分の二の多数決とする。
第10条 管理制度
1.締約国の本条約上の義務の遵守を検証するため、ここに管理制度を設置する。
2.管理制度は以下のものより構成される。
(a)第5条に規定されたIAEAの保証制度
(b)第11条に規定された報告及び情報の交換
(c)第12条に規定された説明の要請
(d)第13条に規定された事実調査団の要請及び手続き
第11条 報告及び情報の交換
1.各締約国は、その領域並びにその管轄及び管理の下にある地域内で生じた本条約の履行に影響を及ぼすような、重大な出来事に関する報告書を執行委員会に提出する。
2.締約国は、条約上の、または条約に関して生ずる事項に関する情報を交換することができる。
第12条 説明の要請
1.各締約国は他の締約国に対し、当該締約国の条約の遵守に関し不明瞭と考えられるまたは、疑義の持たれる状況に関し、説明を求める権利を有する。当該国はその要請を執行委員会に通報する。要請を受けた締約国は必要な情報を遅滞なく提出することによって滞りなく対応し、その対応につき執行委員会に通報する。
2.各締約国は、執行委員会に対し、他の締約国の条約の遵守に関し不明瞭と考えられる、または、疑義の持たれる状況に関し、当該締約国より説明を求めるよう執行委員会に要請する権利を有する。執行委員会は、このような要請を受け、要請された説明事項に対する説明を得るために、当該国と協議する。
第13条 事実調査団の要請
締約国は、本条約の付属書に示す手続きに従い、他の締約国に対し、条約の遵守に関し不明瞭と考えられる、または疑義の持たれる状況に関し明らかにし、解決するために事実調査団を当該国へ派遣するよう執行委員会に対し要請する権利を有する。
第14条 救済措置
1.執行委員会が付属書に従い、締約国による条約違反があると決定する場合には、当該締約国は合理的な期間内に条約の完全遵守に必要な全ての措置を取るとともに、その措置または提出された措置を執行委員会に対し速やかに報告する。
2.締約国が本条1の規定に従わない乃至従うことを拒否する場合、執行委員会は、第9条3(e)の規定に従い総会を招集するよう要請する。
3.本条2に従い召集された会合においては、総会は急迫した状況を考慮し、IAEAへの問題の提起、及び、国際杜会の平和と安全保障を危うくする場合には国連安保理及び国連総会への問題提訴を含む、この状況に対処するために適当と考えられる何らかの手段を決定する。
4.本条約議定書の締約国による議定書違反が発生した場合、執行委員会は取るべき適切な処置を決定するための総会特別会合を召集する。
第15条 署名、批准、加入、寄託及び登録
1.本条約は、全ての東南アジア諸国、すなわちブルネイダルサラーム、カンボディア、インドネシア、ラオス、マレイシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ヴィエトナムの署名のために開放される。
2.本条約は署名国の憲法上手続きに従って批准されなければならない。批准書は、ここに寄託国として指定されたタイ王国政府に寄託される。
3.本条約は加入のために開放される。加入書は寄託国に寄託される。
4.寄託国は本条約の他の締約国に対し、批准書又は加入書の寄託に関し通報する。
5.本条約及び議定書は、国連憲章第102条に従い登録される。
第16条 発効
1.本条約は、7番目の批准書又は加入書の寄託日に効力を生ずる。
2.7番目の批准書は又は加入書の寄託日の後に本条約を批准又は本条約に加入する国については、本条約はその批准書又は加入書の寄託日をもって効力を生ずる。
第17条 留保
本条約には留保を付してはならない。
第18条 他の国際機関との関係
委員会はIAEA又はその他の国際機関との間で、本条約により設置される管理制度の有効な運営に資すると考えられる協定を締結することができる。
第19条 改正
1.いかなる締約国も本条約の改正を提案することができ、その提案を執行委員会に提出するものとし、執行委員会はその提案を他の全ての締約国に配布する。
執行委員会は直ちに総会に対し、その修正案を検討すべく会合を召集するよう要請する。右会合の定足数は総会の全参加者とする。いかなる改正も総会の全会一致によって採択される。
2.採択された改正は、7番目の締約国の受諾書の寄託国による受領から30日後に効力を生ずる。
第20条 再検討
本条約発効後10年を経た時点で、総会は本条約の運用を再検討するために会合を召集する。また、総会の全てのメンバーの同意が得られる場合は、その後のいかなる時点においても同じ目的の総会を召集することができる。
第21条 紛争の解決
本条約の規定の解釈から生ずるいかなる紛争も、当該紛争の締約国が含意する平和的手段により解決される。1ケ月以内に、当該紛争の締約国が、交渉、仲裁、審理または調停によって紛争の平和的解決に至らない場合、当該紛争の締約国の何れも、他の関係締約国の同意を得た後に仲裁若しくは国際司法裁判所へ付託する。
第22条 有効期間及び脱退
1.本条約は、無期限に効力を有する。
2.いずれかの締約国による本条約の目的の達成に不可欠な条約違反の場合、他の全ての締約国は本条約より脱退する権利を有する。
3.第22条の2に基づく脱退は、総会のメンバーに対し12ケ月前に通告することをもって効力を生じる。