日本ASEAN関係基本資料データベース
東京大学総合文化研究科国際社会科学専攻 山影進研究室
[文書名] 日本国総理大臣とASEAN首脳との会談共同声明
[場所] クアラルンプール
[年月日] 1977年8月7日
1.福田赳夫日本国総理大臣は,ASEAN首脳の招請に応じて,1977年8月7日,ASEAN首脳会議の終了後クアラ・ルンプールにおいてASEAN首脳と会談した。日本国総理大臣との会談には,スハルト・インドネシア共和国大統領,フセイン・オン・マレイシア首相,フェルディナンド・マルコス・フィリピン共和国大統領,リー・クワン・ユー・シンガポール共和国首相,及びターニン・タイ国首相が出席した。
2.日本国総理大臣には,鳩山外務大臣,園田内閣官房長官・国務大臣,田中通産大臣が随伴した。
ASEAN首脳には左記の者が随伴した。
インドネシア マダム・マリク外務大臣,ウィジョヨ・ニティサストロ経済・財政・工業担当国務大臣兼国家開発企画庁長官,ラディウス・プラウィロ商業大臣,ユスフ工業大臣,スダルモノ国家官房長官・国務大臣。
マレイシア アハマド・リタウディン外務大臣,ハムザ・アブ・サマ貿易・産業大臣,マニカバサガム通信大臣,アリ・アハマド農務大臣,ムサ・ヒタム第一次産業大臣,ラザレイ・ハムザ大蔵大臣。
フィリピン カルロス・ロムロ外務長官,セサール・ヴィラタ大蔵長官,ジェラルド・シカット国家経済開発長官,ヴィセンテ・パテルノ産業長官,トロアディオ・キアソン通商長官。
シンガポール ラジャラトナム外務大臣,ホン・スイ・セン大蔵大臣,リー・クーン・チョイ外務担当国務大臣。
タイ ウパディット・パチャリャンクン外務大臣,スティー・ナートウォラタット商務大臣。
会談は,日本とASEAN諸国との間の伝統的に緊密な結びつきを反映した友好的で誠意のある雰囲気の中で行われた。
3.日本国総理大臣は,ASEANの進展と業績,特に1976年2月のバリにおけるASEAN首脳会議以来の進展と業績について説明を受けた。総理大臣は,また,クアラ・ルンプールでのASEAN首脳会議の結果について説明を受けた。ASEANはこの地域の経済成長,社会的進歩及び文化的発展を促進することを目的として創立されたものであることが強調された。ASEAN創立以後の年月において達成された重要な業績及び今回行われたASEAN首脳会議の結果は,東南アジアの安定と進歩に貢献する自主的な地域連合としてのASEANの生育力と活力を積極的に示すものであることが認識された。
4.日本国総理大臣は,東南アジアにおける平和,進歩,繁栄及び安定を確保するためにASEANが果たしている役割,特に,バリにおけるASEAN首脳会議で採択された行動計画に沿つた地域協力を強化するためにASEANがとつた積極的な諸措置に対する評価の意を表明した。
日本国総理大臣は,今回のクアラ・ルンプールにおけるASEAN首脳会議において達成された具体的な成果について,ASEAN首脳に祝意を表明した。
日本国総理大臣は,ASEANの域内経済協力計画を援助し,また日本とASEANとの間の相互依存関係をさらに強化したいとの日本の希望を表明した。
5.日本のASEANとの協力状況が討議された。日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEAN各国との間に緊密かつ友好的な二国間関係がすでに存在していることを認識し,日本・ASEAN間でも具体的な進歩が達成されたことに留意した。特に,1973年11月に設立された合成ゴムに関する日本・ASEANフォーラムが,ASEANのタイヤ試験開発研究所の設立及びゴム研究センターの強化に対する資金援助を含め,ゴム問題に関する日本とASEANとの間の協力の改善につき注目すべき成果を生んだことに言及がなされた。
さらに,定期的に協力措置の策定,検討及び勧告を行うため,日本・ASEAN間の対話が1977年3月の日本・ASEANフォーラムの創設により公式化され拡大されたことが留意された。
6.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEANとの間の協力が拡大されるべきであること,及び日本のASEANに対する協力が,ASEANの経済的強靱性を高めその連帯性をさらに強固にすることを目的とする自立をめざすASEAN自身の努力に貢献するようなやり方で行われるべきであることに意見の一致をみた。双方は,このような協力を通じ,パートナーシップの精神をもつて,日本とASEAN諸国との間に特別かつ緊密な経済関係を発展させることに意見の一致をみた。
7.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEANとの間の貿易を着実に拡大させる必要性を認識し,貿易が双方の利益のため引き続き一層発展するようとの希望を表明した。ASEAN首脳は,ASEANから輸出される製品,半製品及び一次産品の日本市場へのアクセス改善について日本の協力を要請した。日本国総理大臣は,関税及び非関税障壁の撤廃ないし軽減に関するASEAN側の要望をMTNの枠内でさらに検討すること,日本の一般特恵制度を改善すること,及び同制度の下でASEAN累積原産地規則を導入することを含む諸措置を通じ,ASEANの対日輸出増大努力を容易にする用意があることを明らかにした。
日本国総理大臣は,また,ASEAN貿易観光常設展示場の東京設置を含む措置を通じ,ASEAN産品の対日輸出促進のためのASEAN諸国の努力に協力する用意があることを確認した。
8.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,ASEANの現在の対日輸出品目が主として一次産品からなることに留意し,価格安定化措置及びIMF補償融資制度の重要な補完的措置として,ASEAN一次産品の輸出所得を安定させるため,STABEX(輸出所得安定化)制度の線に沿つた制度の設立を討議した。日本国総理大臣は,輸出所得安定化制度を設立したいとのASEANの要望に理解を示し,一次産品輸出所得安定化に関する種種の問題についてASEAN側と共同検討を行うことに同意した。
9.日本国総理大臣は,ASEAN産業プロジェクト実現のため日本が援助を供与する用意がある旨を確認した。この点に関して,日本は,ASEAN各国における一つのASEAN産業プロジェクトに対し,各プロジェクトがASEANプロジェクトとして確定され,かつ,そのフィージビリティが確認されることを条件として,種々の形での資金援助を行うことに同意した。
日本国総理大臣は,かかる援助を供与するにあたつて,総額10億米ドルの要請を好意的に考慮する旨述べた。かかる援助は,これらプロジェクトの性格と要請に応じ,できる限りコンセッショナルな条件で供与されることになろう。日本国総理大臣は,日本のASEAN各国との二国間協力がそれによつて影響を受けない旨保証した。日本国総理大臣は,さらに,日本政府は,具体的要請に基づき,これらプロジェクトを実現していく過程で必要となりうる種々の形の技術援助を供与することを考慮する用意がある旨述べた。
10.ASEAN首脳は,ASEANの経済及び社会開発努力を補完する上で日本の経済技術協力が果している役割につき,満足の意を表明した。日本国総理大臣は,今後5年間に政府開発援助を2倍以上に増大するとの日本の意図を再確認した。この点に関して,日本国総理大臣は,この援助増大の過程において,ASEAN諸国との協力に,より大きな重点が置かれるであろう旨述べた。
11.ASEAN首脳は,特にASEAN諸国に設立されることがより適切な産業の分野,なかんずく労働集約的な分野及びASEANの原材料及び部品に大きく依存する分野において,ASEANにおける産業開発の促進及び多様化に貢献するため日本の民間部門による投資が継続され増強されることの重要性を強調した。
日本国総理大臣は,かかるASEAN側の見解を十分勘案し,日本の民間部門が投資と技術移転を通じてASEANの開発に積極的に参加するよう勧奨する意向である旨を表明した。これとの関係で,ASEAN首脳は,ASEAN諸国が外国民間投資を促進するための措置を引き続きとる旨述べた。
12.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,国際経済協力のための環境の改善に引き続き関心を有する旨表明した。特に,双方は,1977年5月の国際経済協力会議の最終会期及び他の国際会議の場で明らかにされた主要問題,特に開発途上国の問題の解決を達成することの重要性を強調した。双方は,一次産品総合プログラムの種々の要素を含む南北問題について緊急に積極的な措置がとられるべきことに意見の一致をみた。また,日本国総理大臣及びASEAN首脳は,国際経済協力会議で一次産品政策に関し到達した合意が早急に実施されるべきである旨を強調した。これに関し,双方は,共通基金を迅速に設立する必要性を特に強調し,この目的を達成するために日本及びASEANが緊密に協力することに合意した。日本国総理大臣は,ASEAN産品をカバーする既存の国際商品協定に日本が積極的かつ前向きに参加すること及びASEANが関心を有する産品をカバーするその他の商品協定の早期妥結のため最大の努力を払うことを確認した。
この確認の精神に基づき,日本国総理大臣は,日本が国際すず協定の緩衝在庫に対する任意拠出に向けて必要な措置を積極的に検討する旨を明らかにし,また,生産国及び消費国双方にとり受け入れ可能な国際ゴム価格安定協定の早期妥結のため協力する用意があることを明らかにした。
ASEAN首脳は,これらの積極的な姿勢を歓迎した。
13.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,ASEAN,他の開発途上国及び日本の経済に悪影響を与えてきた先進国における保護貿易主義の傾向の拡まりを憂慮の念をもつて考察した。これに関連し,日本国総理大臣及びASEAN首脳は,ASEAN,他の開発途上国及び日本の経済を含む世界経済の安定的発展を確保するため,このような保護貿易主義を除去し,自由な国際貿易を発展させる緊急な必要性があることに意見の一致を見た。双方は,また,先進国からASEAN諸国への投資の流入を拡大することの重要性についても意見の一致をみた。
14.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,文化的及び社会的分野での協力関係を強化する問題を検討した。この点に関し,双方は,日本とASEANの国民の間の相互理解を改善し,かつASEANと日本の結びつきを強化するため,両国民間の交流と接触を容易にすることに合意した。さらに,日本国総理大臣は,ASEAN内の文化協力を促進するためのASEANの努力と関連して必要とされる協力の種類を決定するため,共同研究が行われるよう提案した。日本国総理大臣は,また,右研究の結果を勘案して,応分の資金協力を含め,このような努力に対し日本が貢献する用意があることを述べた。ASEAN首脳は,この提案を歓迎し,双方は,この目的のために合同研究グループを設立することに合意した。
15.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,今回の討議が日本とASEAN諸国との間の増大しつつある相互依存関係の認識に立脚した両者の間の協力と理解の新時代の幕あけとなつたことに満足の意を表明した。双方は,ASEANと日本との間のより緊密な協力がアジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。
16.双方は,日本・ASEAN間の協力は物質的な交流に限定されるべきではなく,相互の信頼と理解の永続的な基盤の構築を目指すものでなければならないことに意見の一致をみた。日本国総理大臣は,ASEAN首脳に対し,日本は自立と連帯性を達成しようとのASEANの努力を支持する旨を保証した。ASEAN首脳は,日本とASEANとの間には特別に親密な友人としての関係が存在することを認め,かかる保証を歓迎した。
日本国総理大臣は,平和に徹し軍事大国とならないと誓つている日本の立場と,そのような立場から,アジアにおける安定勢力としてまた世界における経済的に重要な国として,世界の平和と繁栄に寄与したいとの日本の決意を説明した。ASEAN首脳は,日本の立場と決意に対する理解と感銘の念を表明した。
17.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,現下の情勢は東南アジア諸国に対し,政治,経済及び社会の体制の相違にもかかわらず,対話の強化及び同地域の国民の福祉を増進したいとのすべての国の共通の願望を通じて長期的な平和と安定を達成するため,新たな関係を形成する機会を提供している旨を述べた。双方は,これらの目的達成のため一層の努力を傾注するとの決意を再確認した。
18.日本国総理大臣及びASEAN首脳は,今回の会合が双方にとり極めて有益かつ有用であつたことを認め,日本国総理大臣が引続きASEAN各国を歴訪する際に予定されている二国間の討議を通じ,今回の討議の成果がさらに固められかつ補完されるようにとの希望を表明した。双方は,今回の会合を日本とASEANとの間の協力促進に対する最高レベルでの関心を示すものであるとみなした。日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEAN諸国との間の接触及び協議が,日本・ASEANフォーラム及び外交チャネルを通じ,一層拡大されるべきであることに意見の一致をみた。
19.日本国総理大臣は,ASEAN首脳に対し,今回の会合への招待を感謝し,他方ASEAN首脳は,日本国総理大臣が招待を受諾したことに対し謝意を表明した。
今回の会合は,日本とASEANが政府首脳レベルで一堂に会した最初の機会であつた。日本国総理大臣とASEAN5首脳は,この歴史的な会合が日本とこれら5カ国とを結びつけてきた強く,友好的な絆の一層の強化に極めて貴重なものであつたことにつき意見の一致を見た。六カ国首脳のすべては,最も高いレベルでのこの会合が,日本とASEANとの間の協力を更に強めたいとの彼らの願望を示すものであることにつき意見の一致をみた。
20.日本国総理大臣は,マレイシアの国民と政府が日本国総理大臣及び代表団に示された暖い歓迎と今回の会談のためのゆきとどいた準備に対して心からの謝意を表明した。