日本ASEAN関係基本資料データベース

東京大学総合文化研究科国際社会科学専攻 山影進研究室

 

 

 [文書名] シンガポール・レクチャーにおける橋本総理大臣演説,日本とASEANの新時代への革命−より広くより深いパートナーシップ

[場所] シンガポール

[年月日] 1997年1月14日

 

ゴー・チョクトン首相閣下、

 

トニー・タン副首相閣下、

 

ご列席の皆様、

 

 本日は、伝統ある「シンガポール・レクチャー」において、日本とASEANとの関係につき所信を表明する機会を設けて頂き、誠に光栄に存じます。私は今回ブルネイ、マレイシア、インドネシア、ヴィエトナム、そしてシンガポールを訪問し、各地で温かい歓迎を受けましたが、先ずその事に心より感謝申し上げます。

 

 私は、この訪問を通じ、自由で開かれた活力ある社会の創造に向けた躍動感を自分の肌で感じながら、東南アジア、更にはアジア太平洋地域全体が新しい時代に入りつつあるという認識を改めて強くいたしました。

 

 今年は東南アジア諸国連合(ASEAN)創設30周年にあたります。この間世界政治においては米ソの冷戦が終焉し、経済面では情報化・自由化の流れの中で、資本、労働、技術が国境を越えて自由に移動する世界経済の一体化が大きく進みました。アジア太平洋に目を転じれば、多くの国々が経済的繁栄を享受する一方、中国が自由市場経済に参画しその存在感を増してまいりました。そして東南アジアでは、ASEANとインドシナの対立が今や過去のものとなり、一昨年7月ヴィエトナムがASEANに正式加盟したのに続き、カンボディア、ラオス、ミャンマーの将来の同時加盟が合意され、いわゆる「ASEAN10(アセアン・テン)」が、現実のものとなりつつあります。

 

 この30年間にASEANは、政治的安定と経済発展を成し遂げた成功のモデルとして、世界でもユニークな地位を占めてまいりました。その積極的外交イニシアティブの成果には華々しいものがあり、ASEAN地域フォーラム(ARF)が地域の安定に資する多国間の枠組みとして着実に進展している他、APECに加え、アジアと欧州との関係強化を図る歴史的取り組みとして、アジア欧州会合(ASEM)が発足しています。

 

 私はこの30年間を振り返り、我が国は、一貫してASEANの友人であり、互いに助け合いながら発展の道を歩んできたと申し上げたいと思います。皆様ご承知のように、今を去る20年前に、当時の福田総理がいわゆる「福田ドクトリン」を提唱し、また10年前には竹下総理が、日本とASEANの新しいパートナーシップの構築を訴えております。21世紀を4年後に控えた今日、日本とASEANの協力関係をどのような形でこの新しい時代に相応しいものに改革していくべきか、このことを本日皆様とともに考えてみたいと思います。

 

ご列席の皆様、

 

 これまで政治・経済両面にわたり成功を収めてきたASEANも、アジア太平洋における新たな挑戦に直面しているように思われます。

 

 目覚ましい経済発展の裏に、いまだ繁栄から取り残された貧困が存在しています。

 

 自由と平等を誰しもが享受する社会を目標としつつも、その長い道のりにおいてその理念が必ずしも十分に実現されていない姿も見受けられます。

 

 また、経済発展により人々の暮らしが豊かになる一方、固有の伝統文化が失われるのではないかといった心配もないわけではありません。

 

 今後ASEANがその繁栄を継続していくために、開かれた国際経済体制を維持しつつ、国内の構造改革に取り組み、独自の創造性を発揮する努力が求められてもいます。

 

 更に、高度経済成長とは裏腹に、環境、食糧、エネルギー、人口、エイズ、麻薬といった問題が一層深刻化するのではないかという懸念もあります。

 

 こうした問題はASEAN構成国の拡大に伴い、より深刻化し、各国間の調整も難しくなるでしょう。これらの諸問題を克服しながら、個別各国の利害を乗り越えて東南アジア諸国全体の団結を強め、アジアの平和と繁栄の素地となることが「ASEANの試練」であり、世界が注目する所以であります。

 

 翻って我が国はどうでしょうか。戦後50年間、日本を支えてきた社会経済システムが深刻な限界を露呈しています。我が国は現在、大きな転換期に直面しており、改革が急務であります。我が国の社会経済システムを21世紀に相応しい形に新たに創造していくため、特に六つの分野、即ち、行政、経済、金融システム、社会保障、財政、教育における改革を推進していかなければなりません。

 

 例えば、「経済構造改革」は、我が国経済の効率性、柔軟性、国際性を高め、経済活動の場としての我が国の魅力を増大させることです。これは同時に、ASEAN各国を含む諸外国の産業にとって、我が国における一層の市場機会の拡大に繋がり得るものでもありましょう。

 

 また「金融システム改革」は、我が国の金融システムをより一層フリー、フェア、グローバルなものとし、高度な国際金融市場としてダイナミックな再生を図るものです。例えば、これにより海外からの我が国市場での円滑な資金調達や、海外での円の一層自由な利用が可能となるなど、国境を越えた円へのアクセス、利用が促進されると考えております。このことは、シンガポールをはじめとするアジアの経済や金融市場全体の発展にも貢献するものと確信しております。

 

 これらの諸改革は、いわば「日本の試練」であります。必ずしも易しい試練ではありませんが、克服しなければならない挑戦であります。

 

 日本とASEANは地政学的にも、歴史的にも深い関係にあります。アジアの安定と発展こそが日本の安定と発展の前提であり、相互に不可分であることは言わば自明の理であります。従って日本としては、友情を精神的基盤として、ASEANと共に悩み、考え、体験を分かち合いながら、一方では、今後ともASEANが成功のモデルであり続けるよう引き続き協力し、またASEANから多くのことを学んで自己改革を行って参りたいと思います。

 

ご列席の皆様、

 

 日本とASEANは従来より経済面において、互いに助けあい、支えあう関係にありました。今後とも、アジア太平洋の経済的繁栄を持続・発展させることを目指し、開かれた国際経済体制の構築のため、互いに協力していく必要があります。

 

 そのためには、急速に進む世界経済のグローバリゼーションの中で、自由で開かれた世界経済システム、別の言葉でいえば多角的自由貿易体制を維持強化するために、日本とASEANがWTOの場で一層協力することが先ず重要です。更に、APEC、ASEMといった枠組みを一層効果的に活用していく必要があります。特に、APECが開かれた地域協力の理念の下、この地域の経済的繁栄を追求する枠組みとして益々その重要性を増しているのは歓迎すべきことです。

 

 次に、日本とASEAN各国が国内において、市場原理に適した社会経済システムの構築を図るため、現状に安住せず様々な改革に勇気を持って取り組むことも必要です。先ほど我が国が現在取り組んでいる6つの改革についてお話いたしましたが、こうした国内改革の必要性という点ではASEANも決して例外ではありません。アジア太平洋の安定的経済成長を支える一角として、ASEAN域内及び各国国内の経済改革を積極的に進めていく必要がありましょう。

 

 即ち、ASEANの成長パターンが域外国への輸出から域内の消費需要にリードされる形に変化しつつあります。今後とも内需主導型成長を持続するためには適切な市場規模の形成が不可欠です。そのためには、ASEAN各国が個々の利害を乗り越えて地域の成長の基盤作りに向け団結し、ASEAN自由貿易地域(AFTA)、ASEAN産業協力計画(AICO)のような域内市場統合の努力を、貿易投資の自由化の流れを促進する形で今後とも一層推進していく必要があります。また各国国内の状況を見ましても、産業構造の高度化の必要に迫られている国もあれば、市場経済原理に則った国際経済システムへの参画やインフラ整備を緊急の課題としている国もある等、各々の発展段階に応じた国内改革の必要性に直面しています。

 

 ASEAN各国が今後、市場経済原理や諸国間の相互協調といった原則に則り、こうした地域及び国内の構造改革に積極的に取り組み、地域のダイナミックな成長を他の地域にも開かれた形で維持・促進していくことは、アジア太平洋ひいては世界経済全体の利益を拡大する上で極めて重要であります。我が国としてもASEAN各国の努力を出来る限り支援したいと考えております。

 

 なお、このような改革は、経済発展の主たる担い手である民間部門がその原動力を十分発揮できるよう、その要望を踏まえて推進する必要があることは言うまでもありません。また日本とASEANの間の民間レベルでの経済交流も更に促していく必要があります。私が通産大臣であった時も、裾野産業育成や知的財産、品質管理、産業技術研究といった分野での協力や、新たにASEANのメンバーとなる国々を含めた産業協力を実施してまいりました。今後はASEANの拡大を踏まえ、その直面する問題により即応する形でこのような協力を拡大し、民間活力を一層支援するとともに技術移転を促進していきたいと思います。

 

 更に、このようなアジア太平洋の経済発展のために、政府開発援助(ODA)を引き続き活用し、我が国としてできるだけの協力をしていくつもりであります。その際、限られた資金を効率的かつ効果的に活用するという観点に立てば、ODAの実施に様々な新しい工夫も必要でしょう。例えば市場経済に移行するため一部の国々が払っておられる努力に対し知的支援を行うとか、政府と民間部門が共同作業により経済社会インフラの整備を行うこと、更に、国境をまたぐ地域的アプローチによる開発援助や、援助国間の自発的協調といった工夫などが挙げられましょう。

 

 このように経済、貿易、民間投資、ODAといった政策を地域の事情に応じて組み合わせることは、我が国が提唱する「新たな開発戦略」の趣旨にも沿うものであります。

 

ご列席の皆様、

 

 日本とASEANの経済関係は拡大の歴史をたどり、双方にとり死活的に重要なものとなっております。今後ともその拡充に努力すべきことは論をまちません。しかしながら、国際関係は経済面にとどまるものではありません。従来からの経済面での関係の充実に加え、ASEAN創設30周年という一つの節目を迎える本年、日本とASEANとの対等な協力関係を、新しい時代に相応しい、より幅広い、より深みのあるものに変えてゆきたいと考えております。そのための新たな日本とASEANの協力関係の改革にあたり、私は、次の3つの側面から共同の取り組みを強化していかなければならないと思っております。

 

 その第1は、首脳レベルをはじめとする、あらゆるレベルにおける不断の交流を拡大、深化させていくことであります。ASEANが国際社会においてコミュニティとしての一体性を増しつつある現在、日本とASEANとの間で様々なレベルの政策対話を一層強化していくことが是非とも必要ではないかと思っております。

 

 日本とASEANの協力関係推進のためには何よりも政治的リーダーシップが必要です。よって、先ず、首脳レベルでの個人的信頼関係をこれまで以上に強化するために、首脳間の対話を一層充実させるべきであります。日・ASEANの首脳レベルでの対話をあらゆる可能な機会をとらえて、緊密かつ頻繁に行うこととしたいと考えております。今回私は、正にそのためにASEAN諸国を訪問したのでありますし、今後もASEAN各国首脳の来日を歓迎したいと思います。ASEANの公式・非公式首脳会議等の機会は大いに活用すべきです。今回のASEAN訪問の際に、私はこのことを各国首脳に提案し、このような基本的な考え方につき各国首脳にも賛同を頂きました。

 

 そうした流れの中で、従来より日本とASEANの協議の場であった「日・ASEANフォーラム」を活性化し、より頻繁にこれを行い、意味のある対話の場としていくべきであると思います。また、我が国は、今年から2年間、国連安全保障理事会の非常任理事国を務めることになりましたが、国連の場においてもASEANとの政治協議を緊密に行っていきたいと思っております。更に、2国間レベルでアジア太平洋の今後の安全保障につき腹蔵のない話し合いを行っていくことも、21世紀のこの地域の平和と安定の確保のために是非進めていきたいところです。

 

 その第2は、言い古されたことかも知れませんが、我が国とASEANの友好関係を真に盤石なものとするために、国民の間の相互理解を一層深め、文化面での多彩な協力関係を樹ち立てることであります。ASEANのいずれの国をとりましても、その豊かな文化的遺産が我々の心を打ちます。それぞれの国に固有の文化が今も息づいています。これを末永く保存し、個々の文化的多様性を守りつつ、その基盤の上に多角的な協力が行われる必要があると思っております。

 

 我が国はこれまで、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金等を通じて、ヴィエトナムのフエ遺跡やカンボディアのアンコール遺跡等の東南アジア地域における文化遺産の保存・修復に、我が国からの技術移転を図りつつ協力して参りました。今後とも、かかる文化遺産の保存・修復や、各国固有の文化の維持・発展に対して、我が国としても積極的に協力していきたいと考えています。

 

 また、このような伝統・文化の保存と並び、近隣諸国の間で相互の伝統・文化についての理解を深めることも重要です。私は、民間レベルでの取組みと連携をとりつつ、次代を担う青年同士の交流をはじめとする人的交流の拡充、そして多様な文化の共生を探る多国間での文化協力の強化に一層力を尽くしたいと思っております。より具体的には、日・ASEANの文化関係者からなる多国籍文化ミッションをASEAN各国に派遣し、今後の文化交流、文化協力のあり方につき提言を行ってもらっては如何かと考えています。このような交流を通じて、アジア太平洋の共同体意識が一層醸成されることを期待しております。

 

 第3に、国際社会が全体として直面する様々な問題に対し、日本とASEANが知見と経験を分かちあい、一致協力して取り組むことであります。

 

 日本とASEANがよりグローバルな役割を果たしつつある中で、テロリズムや環境、保健・福祉の向上、更には食糧、エネルギー、人口、エイズ、麻薬、法の支配の確立といった、21世紀に向けた様々な国際的諸課題に対し、両者が共同して取り組むことは日本とASEANの関係に新たな広がりと深みをもたらすものと確信しています。協力の例を挙げてみましょう。

 

 今般のペルーにおける日本大使公邸襲撃事件については、テロに屈することなく、人質の早期全面解放に向け粘り強く努力しているところであり、今回、各国首脳より我が国に対する激励と、フジモリ大統領に対する支持の言葉を頂いたことに感謝申し上げます。こうしたテロリズムは国際社会が断固たる姿勢をもって一致協力して対処しなければならない課題であります。今回の事件の早期解決に全力を尽くすことは言うまでもありませんが、事件が解決した時点で、我々が今後肝に銘ずべき様々な教訓を洗い出し、各国の関係当局との間で情報を常に交わしうる体制を作っていくべきではないかと考えております。これは、テロリズムに対処し、国民生活の安全を守る上での情報や意見交換のためのネットワークを、日本とASEANの間で構築しようとするものであり、今回の一連の各国首脳との会談においてご賛同を頂くことができました。

 

 また環境問題は、正にグローバルな広がりを持つ問題です。我が国自身が過去の高度成長の過程で大気汚染や水質汚濁等、深刻な公害問題を経験しました。これに対処するため、研究所レベルでの公害防止技術の開発のみならず、税制上の工夫や諸規制をはじめ様々な政策手段を駆使し、これらの技術が実用化されるよう、また生産プロセスに組み入れられるよう努めました。こうした官民を挙げた努力の結果、公害問題を乗り越えるとともに、新たな産業や製品をも生むことにもなりました。近年では、大量生産・消費を背景とした廃棄物問題、地球温暖化問題等の都市型・生活型の環境問題に対し真摯に取り組んでいるところです。成長著しいASEAN諸国が我が国と同じ轍を踏むことのないよう、単に我が国のサクセスストーリーのみでなく、我が国の失敗の経験や解決の過程における様々な困難などを含め、産業公害防止やエネルギー有効利用等の我が国自身の経験、技術を各国との間で分かちあっていきたいと思います。また、我が国がASEAN諸国や新たにメンバーとなる国々に対しODAを実施する際におきましても、公害防止や森林・生物多様性の保全への貢献など、様々な環境協力を積極的に推進していく考えであります。

 

 更に、保健・福祉の向上は、経済発展段階の違いに拘わらず各国が取り組むべき課題です。私は昨年「世界福祉構想」を提案し、その具体策として「東アジア社会保障担当閣僚会議」を昨年十二月に沖縄で開催致しました。今後はこの会議で得られた成果を踏まえ、この構想を将来に向けて如何に発展させることが適当かASEANの協力も得つつ、検討していきたいと考えています。

 

 これら環境や保健・福祉のいずれにおいても、我が国の知見や経験を分かちあうのみならず、ASEANの知恵を学びたいと思います。

 

 また、これらの分野に限らず、目覚ましい発展を遂げたASEAN諸国が、自らの経験を今まだ困難な状況にある国々に伝え、その開発を支援しておられます。ASEAN各国が、宗教、文化、気候面での共通性を活用して、開発の遅れた諸国を一層支援していくことは、極めて意義深いものと考えます。我が国としても、三角協力等を通じ、様々な分野における日本とASEANの協力の成果が世界の他の地域において広く享受されるよう努力していきたいと思います。

 

ご列席の皆様、

 

 このように日本とASEANが、新しい世紀の到来を視野におきつつ、前向きに共同の取り組みを強化していくにあたり、最も重要な前提条件はこの地域に平和と安定が揺るぎなく確保されることであります。

 

 そして、そのための最重要の要素がアジアにおける米国のプレゼンスであると私は信じて疑いません。

 

 冷戦が終わった今日においても、この地域には引き続き幾つかの不安定要因があります。これらが、国際紛争に発展しないようにするためには、類稀な国力を維持し、市場原理、民主主義、創造性の尊重といった原則に立つ米国のプレゼンスが必要不可欠であります。

 

 日米安保体制はそうした米国のプレゼンスを確保していくための枢要な枠組みであり、だからこそ我が国としては、今後とも日米安保体制の信頼性を堅持していくことをこの際明確に述べておきたいと思います。そして、日米安保体制はこの地域の安定及び経済的繁栄の維持のための一種の公共財の役割を果たすものであり、如何なる意味においても特定の国に向けられたものではないことが、正しく理解されるように望んでおります。

 

 また、もう一つの重要な要素として、中国との関係にも触れておかなければなりません。ASEAN諸国のいずれをとりましても、中国との間においては、歴史的にも文化的にも、政治・経済的にも、深い関係、切っても切れない関係があります。我が国についても同様であります。中国は改革・開放政策によって、近代化への道を歩みはじめ、あらゆる分野でその存在感を増してきました。我々としては、こうした中国の改革・開放政策追求の流れを支援し、また、中国との間で幅広い対話と協議、そして交流を進めることによって中国が国際社会における建設的パートナーとしての地位を固めていくようにしていくことが重要であるといえます。日本の対中経済協力はこのような観点から行われているものであります。日本の対中円借款は中国の経済発展にとって必須な公共事業の推進に一定の役割を果たしており、医療面での協力をはじめとする無償資金協力は中国国民の生活・福祉の向上に役立つものであります。このような協力は、中国国民の日本に対する信頼感の醸成に寄与していると考えております。政治的に安定し、経済的に豊かな、そして信頼の絆で結ばれた、そういう中国の存在は、この地域の、ひいては世界の誰しもの利益に適う所以であると私は確信しております。

 

 私は、日本、米国、中国の三国の動向はアジア太平洋全体に重要な影響を及ぼすものと認識しています。日米、日中、米中の関係がそれぞれ前進することはこの地域の平和と繁栄に寄与するものであり、これらの間に「ゼロ・サム」の関係はありません。この認識に立って、私は、かねてから米中関係の改善の重要性を指摘して参りましたし、両国の関係が最近改善の方向へ向かい始めたことを心から歓迎しております。

 

 我が国にとって今一つの隣国であり、国際社会で益々重要な地位を占めつつある韓国との友好協力関係を維持、発展させることも、我が国の最重要の外交政策の一つです。同時に、朝鮮半島の平和と安定の確保は、アジア太平洋全体の平和と安定と切り離せない重要課題であると考えております。KEDOはその典型的な例であります。北朝鮮の核開発問題は地域的な安全保障上の問題であるとともに、国際的な不拡散確保の上での重要な関心事項でもあります。KEDOのプロジェクトに対し、ASEAN諸国が一層の貢献をされることは、国際社会全体の課題に積極的に取り組むASEANの姿勢を広く印象づけることともなります。私は、今月末に来日される金泳三大統領との間で、アジアにとって不可欠な朝鮮半島の平和と安定の実現の方策等につき、緊密で幅広い対話を行うことを心待ちに致しております。

 

ご列席の皆様、

 

 21世紀は、アジア太平洋において、豊かで開かれた社会が創造される世紀となるべきであります。そのためには、私は、本日これまでお話してきたように、アジアにおける米国のプレゼンス、中国の国際社会への一層の建設的参加を前提としつつ、日本とASEANが、それぞれ抱える試練に真正面から取り組むことが不可欠であると固く信じております。その過程において、日本とASEANは、これまでどちらかと言えば経済面に比重が置かれてきた相互の協力関係を、新しい時代に相応しいより幅広く、深みのあるものに改革していく必要があります。

 

 本日私が具体的提案として申し上げたことは、第1に首脳間対話の緊密化、第2に固有の伝統、文化の継承と共生に向けた多角的な文化協力、そして第3にテロや環境等、世界全体の課題に共同して取り組むこと、以上の3つであります。

 

 新たな世紀を準備するこれからの数年間は、様々な挑戦が生起する、我々にとって決して平坦な道ではないでしょう。しかしながら、日本とASEANの持つ英知と仁愛、勇気をもってすれば、駆け抜けることのできる道であると信じております。

 

ご清聴ありがとうございました。