国際関係研究入門(増補版)


 1996年春に出した初版に必要最低限の追補を加え、装いも改めて2003年9月に出しました。そもそも国際関係論をあのような分野の立て方で提示して良いのかどうか、議論がなかったわけではないのですが、駒場の大学院でやっていることに基づいた構成を世に問うても良いだろう、ということになりました。初版に対する評価は、仄聞した限り、高かったようです。
 それから7年、国際関係は大きな展開を示しました。国際関係論という学問はどうだったでしょうか。もちろん新しい業績が出ました。本書に即して言えば、初版の記述が陳腐化した部分もあります。具体的には、国際方法論の補論として当時の院生諸君に書いてもらった「国際関係研究におけるインターネットの利用」は、同じメンバーによる新稿と全面的に入れ替えました。試しに比べてみると、変化の大きさに驚かされることでしょう。
 学界を眺めてみれば、いろいろな変化が起こっているようです。国民国家の相対化を「売り」にした新しい国際関係論がいろいろと提唱されていますが、面白いものになかなかお目にかかれません。時流化したいわゆるコンストラクティビズムもいわずもがなの議論が多く、鋭利な刃物を持った道具が見当たりません。こんな不満も、時代遅れになったパラダイムを墨守し、新しいものを受け付けにくくなった硬直化しつつある私の脳みそのせいかも知れません。本当に新しい国際関係論のための新しい研究入門は、きっと新しい世代によって書かれるでしょう。



◆ 短評 ◆

 「それってよーするに桝添さんみたいなやつだよね。」
 桝添氏の研究内容ではなく、テレビでの発言内容を想像しているのだろうと薄々感じつつ、僕は不誠実にも「うん、そんなとこ」と答えてしまう。まあ、言葉としては嘘ではない(僕も主に国際政治の視点から研究している)し、それ以上国際関係論の研究内容を具体的に説明するとなぜか場が白けてしまうコトは幾多の苦い経験から学習済みなのだ。
 ところで、経済学の学生は、たとえ僕のように口べただったとしてもこんな目には遭わずに済むのだろう・・・と僕は勝手に想像して羨ましがっている。国際関係論は、学際的かつ広範であるがゆえ、なにが学問の中身なのか見えにくいところがあるのだ。それが社会的認知のレベルにも影響しているように思える。
 では、国際関係論の実体とは何なのか? 本書はそれを「研究者が実際にどんな仕事をしているのか?」という視点から示してくれる。国際関係論全体はもとより、その中に含まれる個々の分野の実体を知る上での道しるべとして、非常に有用である。
 また本書は、学問の中身を示すと同時に、その先に進むための道具も用意した「研究」の入門書である。各分野について必読文献を示し、辞典や研究雑誌をリストしている。これに加えて、ウェブサイトを利用した情報収集に役立つ情報もかなりの分量が補論としてまとめられている。
 一度パラパラとページをめくってみて頂ければ、「道しるべ」としても「道具」としても役立ちそうだと分かって頂けると思う。そして国際関係論の守備範囲が広範であり、どんな学問なのかを一言で説明するのが難しいことも、理解して頂けるはずである。


             東京大学大学院総合文化研究科
        学術研究支援員 鈴木一敏氏(国際政治経済論)



◆ 目次 ◆

      増補版はしがき
     はしがき これからの国際関係論を担うあなたへ

     序章   国際関係論--その一つのあり方  山影 進
     第1章  国際関係史           石井 明
     第2章  国際政治論           山本 吉宣
     第3章  国際関係法           小寺 彰
     第4章  国際経済論           岩田 一政
     第5章  国際文化論           平野 健一郎
     第6章  国際協力論           鬼塚 雄丞
     第7章  比較政治論           高橋 直樹
     第8章  日本外交論           酒井 哲哉
     第9章  国際方法論           山影 進
     補論   国際関係研究におけるインターネットの利用

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岩田一政・小寺彰・山影進・山本吉宣(編)
『国際関係研究入門(増補版)』(東大出版会)


2005430日更新


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