タイトルにもあるごとく「新しいASEAN」を多面的に解説し展望する新書形式の本である。共同体構築への志向の明確化、組織や規範における自己変革、域外世界との関わりの拡大と深化など、とりわけ今世紀に入ってからのASEANは、専門家ならずとも目を向けてしまうような、さまざまな新たな動きを見せ続けている。こうした多岐にわたる展開とその展望について、ベテランから若手まで七人のASEAN研究者が、各人の関心と視角を投影させつつも、全体としてはバランスよく、とても分かりやすくまとめた本になっている。
さて、評者はASEANについて全くの素人であるが、この本がよいのは、内容自体の分かりやすさもさることながら、ASEANという研究対象のもたらす「わくわく感」が、素人にもよく伝わってくることである。と言っても、地域共同体としてのASEAN、あるいはアジアの中心としてのASEANに対して、特に過大な評価や楽観的な見通しが示されるわけではない。七本の論考はこうした点についていずれも抑制的であるが、変化しつつある「ASEANそのもの」を伝えようとする執筆者たちの分析的な姿勢のなかに、「彼らはまた何か大きいことをやり遂げてくれるかもしれない」といった期待感のようなものが垣間見えるのである。対象が現に持っているダイナミズムがそうさせているのかもしれないし、あるいはこの本が書かれた時期――たとえばASEAN共同体の「発足期限」2015年はまだちょっと先である――も関係しているのかもしれない。いずれにせよ、そのような「旬」な研究対象と対面している執筆者たちに、門外漢の評者は、指をくわえて「ちょっとあやかりたいなあ」と思ってしまうのである。
最後に、このサイトは山影研究室のサイトであるので、いささか勝手ながら、もう一つ別の「論点」も加えておきたい。それは、山影先生が担当した第一章「ASEANの歩んできた道、これから作る道」に関する話しである。この章の最後のわずか五行ほどで、先生は突如一人称で語りはじめ、瞬時に自身とASEANとの関わりを振り返って、今後への期待の言葉とともに筆を措いている(詳しくは買って読んでください)。評者の完全な妄想でしかないのかもしれないが、それは、さも「今後は陰ながらご活躍をお祈りしております」といったような、研究対象としてのASEANに対する、先生のお別れの言葉にも聞こえてくるのである。台頭著しい若手――たとえば本書後半は山影門下の若手研究者たちが書いている――にあとは委ね、どこか別のフロンティアに向かおうとしているのか。それともASEANというフロンティアとそれに向き合う「わくわく感」はまだまだ尽きそうにないので、ここらでいったん仕切り直しをしようとしているのか。ASEAN研究者としての山影進の今後の動向から目を離せない。
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教
阪本拓人
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